絵を描いてから仕上げとして全体に「表面テクスチャ」をかけるのではなく、また、用紙テクスチャに反応するブラシを使うのでもなく、テクスチャ表示のためだけのレイヤーを利用して作業する手順を紹介します。
テクスチャを効果として使ったときの問題
Painter に古いバージョンからあって、用紙の表面の質感を出すために便利な機能が「表面処理」効果のなかの「着色濃度の調整(参照元をテクスチャにして)」と「表面テクスチャの適用」です。
次に実例をあげてみます。左上がオリジナル(テクスチャなし)、右上が「着色濃度の調整」を参照元を「テクスチャ」にしてかけたもの、左下が「表面テクスチャの適用」の「量」を控えめにしてかけたもの、右下が「着色濃度」のあとに「表面テクスチャ」をかけたもの、です。
使用したテクスチャは「テクスチャの作成」でパターンに「新ハーフトーン」を選択して作成し、反転したものです。
こんなふうに便利に使えるテクスチャを使った効果ですが、使用にはいろいろ制限があります。
- キャンバスに直接効果をかけることになるが、その後に加筆するとそこだけテクスチャがなくなってしまうので、加筆できなくなる。
- いったん効果をかけると、その強さを後で調整することができない。
- 絵の一部だけにテクスチャをかけるのがむずかしい。選択範囲を使えばできないことはないが、結果を見ながら調整できない。
- 複数レイヤーからなる作品にそのままテクスチャ効果をかけることができないので、全体をクローンして仕上げ段階で効果をかけるしかない。
テクスチャをレイヤーに置けば解決
こういった問題はテクスチャを別レイヤーにしてイメージの上に置くことで解決できます。Painter ではレイヤーがグラフィック・アプリケーションで多用されるようになる前にこういった機能を搭載してしまったので、解説なども古いバージョンでの方法を引き継いでしまっている傾向がありますが、テクスチャはレイヤーにも変換できるのです。
テクスチャがレイヤーであれば、複数レイヤーからなるイメージの上からまとめてテクスチャ効果がかけられますし、テクスチャの強さはいつでもレイヤーの不透明度を調節することで変えられます。テクスチャの一部を弱くしたり消すのもレイヤーマスクを使って、プレビューあり、再編集可、の状態でできますし、テクスチャと下のイメージとが独立しているので、イメージに加筆することもできます。
Painter の「表面テクスチャの適用」はパソコンの画像処理としてそれほど特殊なことをやっているわけではありません(最初に搭載された当時は先進的だったと思いますが)。用紙テクスチャはグレースケールの濃淡データです。これを使う「表面テクスチャの適用」は、もっと一般的な用語で言えば、グレースケールデータによるバンプマップ生成です。使えるならどこで使っても OK。また、「着色濃度の調整」は同じグレースケールデータをオーバーレイにして再合成しています。
この二つのテクスチャ効果について、レイヤーを使って同じ効果を得るためには次の手順で。
着色濃度調整レイヤーの作成
- 色が白のキャンバスかレイヤーを用意。新規レイヤーを作成して白で塗り潰す、など。
- 使うテクスチャを選択し、コントラストや明度、倍率などを調整しておく。
- 「効果」の「表面処理」から「テクスチャを表現」という効果を選択、スライダを上から150%, 100%, 100%の設定で実行する。用紙テクスチャをイメージに変換 を参照。
- キャンバスに効果をかけた場合は「全選択」ののち「レイヤーに変換」しておく。
- レイヤーパレットでこのレイヤーを選択し、合成方法をオーバーレイに変更する。また、不透明度を半分程度に下げる。
この方法では、テクスチャの暗い部分により多く色が乗った表現になります。これは Painter のほとんどのブラシのテクスチャの出かたと同じ濃淡ですが、(新)水彩、デジタル水彩、手法が「塗り潰し+ソフト+テクスチャ」のブラシ、Painter 11 で追加されたマーカーブラシだけは、テクスチャの明るい部分により濃厚に色が乗るブラシです。使用目的によっては、濃淡の出かたを反転させるため、このレイヤーに「効果」-「色調処理」-「ネガ変換」をかけておきます。
この操作をしても、下にあるのが白いキャンバスであれば、何も見えません。このレイヤーの下に描画するか、画像をペーストすると、テクスチャが濃淡になって現われます。
表面テクスチャレイヤーの作成
- 色がグレー 50%(R:128, G:128, B:128 あるいは V:50%)のキャンバスかレイヤーを用意。新規レイヤーを作成してグレーで塗り潰す、など。
- 使うテクスチャを選択し、コントラストや明度、倍率などを調整しておく。(着色濃度調整レイヤーと併用する場合は、設定を合わせておく。)
- グレーのレイヤーに対して「効果」-「表面処理」ー「表面テクスチャの適用」を実行。「量」のスライダの数値は 50 以下などに、他の数値はデフォルトのままで。テクスチャの強さは、あとでレイヤーの不透明度を下げることで調整できるので、「量」の数値は少しだけ多めでもよい。
- レイヤーパレットでこのレイヤーを選択し、合成方法をハードライトに変更する。また、不透明度を下げる。
最初の色をグレー 50%にしておくことが重要です。上の操作で表面のデコボコっぽい模様が見えるようになります。
表面テクスチャレイヤーについては、白い部分にもテクスチャが出ますが、これがいらない場合は合成方法をオーバーレイに変更します。
テクスチャレイヤーの使用
レイヤーの並び順
上記の「着色濃度」レイヤーと「表面テクスチャ」レイヤーは重ねて使うのが効果的です。このとき、表面テクスチャのレイヤーが上にくるようにします。
描画時の注意
- 作成したテクスチャレイヤーには、レイヤーパレットでロックをかけておき、間違ってそこに描画しないようにする。
- テクスチャレイヤーを使用するときは、複数のテクスチャが混ざるのを避けるため、用紙テクスチャは無地のものを選択するか、現在選択されているテクスチャのコントラストをゼロにして、灰色無地にしておく。(意図的にテクスチャレイヤーとは違う用紙テクスチャを使うことに制限はありません。)
テクスチャの調整
作品作成の途中でいつでも、次のような調整を行うことができます。
- 表面テクスチャレイヤーは、白い部分でもテクスチャが見えてほしいときは合成方法をハードライトに、白い部分はテクスチャが出ないようにするには、オーバーレイに、随時変更する。
- テクスチャの全体の強さは、それぞれのテクスチャレイヤーの不透明度で調節できる。
- テクスチャの一部を薄くしたり消したりしたいときは、テクスチャレイヤーにレイヤーマスクを作り、レイヤーマスクにフォーカスを移した上で黒で描画する。消しすぎた部分は白で描画して調節。
レイヤーの大きさはキャンバスに合わせて自動的に変化するわけではないため、キャンバスサイズを大きくした場合は周辺部までテクスチャがかかりません。そういうときはテクスチャレイヤーを作りなおしてください。
テンプレートでの使用
Painter IX でテンプレート機能がついたので、よく使うテクスチャレイヤーをあらかじめセットしたファイルを作成してテンプレートフォルダに入れておけば、毎回作業することなくテクスチャレイヤーが使えます。また、テンプレートを配布することもできます。
このサイトでも 1000 x 1000 と 2000 x 2000 のサイズでテクスチャレイヤーつきのテンプレートを用意しましたので、とりあえず効果をためしてみたいかたはダウンロードして使ってみてください。使用した用紙テクスチャは、Drawing Paper というライブラリに収録されている Ribbed Deckle です。ZIP 圧縮してあります。
追加のテクスチャ含む、追加ライブラリは、Painter 11 公式サイト の コンテンツ無料ダウンロード からもらってくることができます。このテクスチャはもっと前のバージョンの Painter でも使えます。
このテンプレートを開くと、右図のようなレイヤー構成になっていますので、現在テクスチャパレットで選択されているテクスチャが無地になっていることを確認してから、キャンバスに描画してください。テクスチャレイヤーの下ならレイヤーを追加することもできます。
テンプレートの追加のしかたは テンプレートの使い方 に説明があります。
(2010/09/10)