いわゆる「白ひきずり」とは
特に下にあるキャンバスが濃い色のときによくわかる、透明レイヤー上でブラシの「塗料」の「にじみ」設定が高めのときに現われる現象です。よくわかるブラシバリアントの例としては、「アクリル」カテゴリの「ウェットアクリル」(Painter 12 でも Acrylics > Wet Acrylics)があります。
実例はこんなぐあい。周辺部分に白が出ています。筆圧を下げるとさらに色が乗らずに白が目立ちます。
すでにレイヤーに内容があるときに、レイヤーに透明度ロックをかけて、はみ出さないように塗ろうとするときも、同じ原因ながら描画部分の端で逆に黒をひきずります。
ブラシ挙動の原理
この現象はブラシコントロールの「一般」に表示される手法が塗潰し (Cover)の場合で、しかもにじみが有効であるときに起きる現象です。手法が選択できませんが、描画の動作は「塗潰し」と同じらしいキャメルヘア系のブラシでも起きます。
スタイラス(タブレットペン)の筆圧が弱めのときに「塗料」の「補充量」が筆圧に応じて低くなり、いっぽう「にじみ」は、特にウェットアクリルの場合は、数値設定が高い上に筆圧反転になっているのでとても強くなり、ブラシが レイヤー上に描画はするが色はすでにある色を拾う状態になるのが原因です。
Painter の透明レイヤーは、透明な状態でも色の情報を持っています。透明部分の色の情報は黒ですが、通常の描画のときにここは透明ではないという情報をつけるときに白になるようです。
透明レイヤーがわりと普通に使えるようになったのが Painter 6 で、それまではキャンバスの上に重ねるものはフローターと呼ばれていました。Painter 5 で初めてフローターの透明部分に描画できる(不透明情報と色情報を同時に編集できる)ようになりましたが、これができたのは新規搭載のプラグインブラシのみです。
回避方法 ― 周辺ではストロークの方向に気をつける
現象の原因ははっきりしているので、「にじみ」の数値が高いブラシは透明部分には使わないようにする、混色のために「にじみ」設定が高いブラシを使うときはストロークは内側から外側(透明部分)へ、という使い方でとりあえず回避できます。
回避方法 ― この現象が出ないブラシを使う
すでに Painter もバージョンが 12 にまでなり、Painter 6 からの間に新しいブラシエンジンも追加されています。そのうち、塗料の設定に影響されないものは、この白ひきずり現象が出ません。次のものがあります。
- Painter IX で搭載されたアーティストオイル系のブラシ。
- Painter X で搭載された混色キャメル系のブラシ。
- Painter 12 で搭載されたリアルウェットオイル系のブラシ。(これは溶けてまざるけれども、引きずって混ぜることができないので、色をなじませるのには向かないかも。)
- 古いバージョンからあり透明レイヤー上で特殊な動作をする溶かし手法のブラシ(「不透明度」を 0 に設定)。
- Painter 5 からあるプラグインブラシいろいろ。
わりと新しいバージョンで搭載されたものでも、水彩関係はブラシが触れた周辺にすべて白いベースレイヤーのようなものができますので、合成モードが「デフォルト」の透明レイヤーには向きません。
プラグインブラシを利用したものに「サージェントブラシ」がありますが、これは「透明レイヤーには描けない」ブラシなので要注意。
その他の Painter 5 からあるプラグインブラシも、Painter 5 では透明レイヤーでは使えない仕様でした。
アーティストオイル、混色キャメル、プラグインブラシを「透明レイヤー上で塗り混ぜながら描く」目的でカスタマイズしたもののセット(TNG Oils)をつくりました。使ってみて、さらにカスタマイズなどしてみてください。ただし、色が混ざる感触は「塗料」パラメータを使用するブラシのほうがやはり良いようです。あくまで「透明レイヤーでも問題を出さない」ためのブラシです。
黒ひきずりの回避方法
レイヤーマスクを使う
透明度ロックを使用しなければ、ブラシが触れたときに色がつきます。レイヤーマスクを使えば見た目は透明度ロックと同じで、かつ、黒はひきずりません。
- レイヤーメニューなどにある Create Layer Masc from Transparency(透明度からレイヤーマスク作成)を実行。自動的に現時点で透明な部分に対してレイヤーマスクがかかる。
- レイヤー上の色塗り・混色の作業を実行。
- 作業が済んだらレイヤーマスクを適用。(レイヤーマスクを削除すると外まで色がはみ出した状態になってしまうので、忘れずに適用すること。)
透明部分の色を置き換えておく
透明度ロック状態での描画で透明部分との境界で黒が出るのは、透明部分が持っている色情報が「黒」であるのが原因。あらかじめ他の色情報を与えておけば、色を拾うブラシ(「にじみ」の強いブラシ)もその色を拾います。
新しいレイヤーで作業を始めるとき
- レイヤーに透明度ロックをかける。
- これからの作業で混じっても違和感が少ない色を選択。
- 編集メニューの塗潰しを実行するか、バケツツールでレイヤーをクリック。
- その後いったん透明度ロックをはずして不透明部分を作り、必要に応じて再度、透明度をロックする。
すでに描画部分がある状態から始めるとき
- レイヤーに透明度ロックをかける。
- これからの作業で混じっても違和感が少ない色を選択。
- バケツツールでレイヤーの透明な部分をクリック。(見えない「黒」の範囲のみを選択色で置き換える。)
透明部分がつながっていず、バケツでの作業がむずかしい場合は、まず置き換えに使いたい色を選択した上で ColorTalk を試してみてもいいかもしれません。ColorTalk ダイアログを表示(キー割当などをしてから使います)、次の式を入力して保存、レイヤーに対して実行します。
t1=step(mask,1); t2=step(0,t1); red=t1*cc_red+t2*red; green=t1*cc_green+t2*green; blue=t1*cc_blue+t2*blue;
見た目の変化はありませんが、透明部分の色情報が黒から現在の選択色に変更されます。ただし、いったんこのファイルを閉じると、透明部分の潜在的な色は黒にリセットされるので注意してください。
残念ながら、古いタイプの混色ブラシでの透明レイヤー上の白ひきずりは回避できないようです。これが気になるような作業を頻繁にする必要がある場合は、上記のカスタムブラシなどを使ってください。
(2011/05/18)